あんな
たかく
JRのきっぷのルールは複雑で、簡単には理解できない部分も結構あります。普通に利用するぶんにはあまり意識する必要はありませんが、ちょっと込み入ったことをしようとすると、規則の勉強が必要です。
多くのルールは時刻表の運賃案内のページを良く読めばわかるようになっているのですが、中には書いていない規則もあります。なかでも「選択乗車」については旅行の自由度に関わってくるところなので、知っておいて損はないはずです。
もくじ
選択乗車とは
選択乗車はJRの営業規則で定められている決まりの一つです。簡単に言うと、乗車券に書かれている経路以外の経路に乗ってもいい場合のことです。
JRのきっぷは原則として、買うときに乗るルートが決められてしまいます。一度きっぷを買ってしまったあとは、そのルート以外に乗ることはできません。ところが、この「選択乗車」が定められている区間に関しては例外的に、乗車券に定められた以外のルートを乗ることができます。
このことは実際に乗車券に書かれないので、知らない人も大勢いるのですが、知っておくと賢く旅行することもできるので、上級者を目指す人は是非勉強しておきましょう。
選択乗車は、「普通乗車券」および「普通回数乗車券」に関する規則ですので、定期券で利用することはできません。
選択乗車には大きく分けて3つの分類ができます。
- 新幹線と在来線
- 在来線同士で似たルートのある場所
- 大都市近郊区間内相互発着の場合
新幹線と在来線
新幹線と在来線は基本的に同じ線路とみなします。東京から新大阪まで行くのに、在来線を通っても新幹線を通っても構いません。
現実的には同一視すると言っても同じにみなしたいと思う場面があまり思いつきません。かつては昼間は新幹線、夜は寝台特急という選択肢があって、寝台特急の場合は在来線を通る、といった事がありましたが、現在は在来線を長距離旅行する必要性があまりありません。
とはいえ、歴史的経緯から、新幹線は在来線と同じ線路だとみなしてきっぷを販売しています。乗車券の代金である「運賃」は在来線でも新幹線でも全く同じです。これに新幹線特急券を買い足すと新幹線に乗れるという仕組みになっています。
つまり、在来線の乗車券で新幹線に乗ることができるし、新幹線の乗車券で在来線に乗ることができます。
あんな
運営している会社が違うのに同じとみなすの?
たかく
ただ、新下関~博多間は新幹線と在来線で運賃が違うから、別の線路だとみなすことになっているよ。
あんな
たかく
国鉄がJRになってから開業した新幹線はほとんどそうなってるね。
新幹線と在来線のルートが違う区間がある
さて、同じ線路とみなすことは選択乗車とはちょっと違います。
これからちょっと複雑な話をしますが、お付き合いください。乗る区間によって同じ線路と見なす場合と、別の線路と見なす場合があるのです。
たとえば、新横浜から静岡に向かうときのことを考えてみましょう。新幹線と在来線が同じ線路だと言われても、東海道本線に新横浜駅はありません。こういう場合は特別に、新横浜~小田原間だけ、新幹線と在来線が別の線路だとみなします。
同じ区間でも、品川から静岡に向かう場合は話が変わります。品川も静岡も新幹線と東海道本線の両方がありますから、全区間同一の線路だとみなします。
わかりづらいかもしれませんが、このような扱いをする区間が全部列挙されているので、旅客営業規則の原文を引用します。
旅客営業規則 第16条の2 第2項
前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる区間内の駅(品川、小田原、三島、静岡、名古屋、米原、新大阪、西明石、福山、三原、広島、徳山、福島、仙台、一ノ関、北上、盛岡、熊谷、高崎、越後湯沢、長岡、新潟、博多、久留米、筑後船小屋及び熊本の各駅を除く。)を発駅若しくは着駅又は接続駅とする場合は、線路が異なるものとして旅客の取扱いをする。
(1)品川・小田原間
(2)三島・静岡間
(3)名古屋・米原間
(4)新大阪・西明石間
(5)福山・三原間
(6)三原・広島間
(7)広島・徳山間
(8)福島・仙台間
(9)仙台・一ノ関間
(10)一ノ関・北上間
(11)北上・盛岡間
(12)熊谷・高崎間
(13)高崎・越後湯沢間
(14)長岡・新潟間
(15)博多・久留米間
(16)筑後船小屋・熊本間
規則の原文には途中駅うんぬんのことは一切書いてありませんが、全部新幹線の途中駅が在来線と離れたところにある区間です。
つまり、新幹線単独駅を途中に含む区間は別線扱い、含まない区間は同一視するということです。
暇な人は路線図を見て、途中駅が何という名前の駅なのか調べてみましょう。
参考 新幹線と在来線が並行する区間の特例きっぷのルール:JRおでかけネット以上のように、乗る区間によって、新幹線と在来線が同一の線路とみなされる場合と、新幹線と在来線が別々の線路とみなされる場合(「幹在別線」と呼びます)があります。
ちなみに、三原~広島間に関しては海田市で呉線が絡むときに新幹線と山陽本線を同一視する例外規定があります。これについては後述します。
別線扱いでもルートを自由に選べるのが選択乗車
新幹線と在来線を同一視する場合は無条件に乗車券の融通が効くことになりますが、別線扱いでも、ほとんどの場合で乗車券は共通で使えるようになっています。つまり、新横浜~小田原間は別の線路だとみなしておきながら、横浜~静岡間の乗車券で新横浜~静岡間を乗ることができます。
このように、別線扱いでも乗車券が共通で使える、というのが「選択乗車」という制度です。
もっとも一般的な例として、三島~静岡間で説明します。
この区間内には新幹線単独駅の新富士駅がありますので、この区間内を発着する場合は新幹線と在来線が別線扱いです。ところが、新幹線の新富士駅と東海道本線の富士駅がまるで同じ駅であるかのようにみなして乗車することができます。
三島~新富士の乗車券を持っていれば、三島~富士間を乗車することができます。逆も同じです。また、新富士~静岡の乗車券があれば富士~静岡間を乗車することができます。
一風変わった乗り方として、三島~新富士間を新幹線に乗り、新富士から富士までは自力で移動し、富士から乗車券の使用を再開して静岡に向かうこともできます。
このように、新幹線単独駅は在来線の対応駅が全て決められていて、共通に使用することができます。途中下車が可能な乗車券であれば、指定された経路以外を乗車中も途中下車ができます。
- 新横浜=横浜
- 新富士=富士
- 岐阜羽島=岐阜
- 新神戸=神戸(三ノ宮ではありません)
- 新尾道=尾道
- 東広島=西条
- 新岩国=岩国
- 白石蔵王=白石
- 古川=小牛田
- くりこま高原=新田
- 水沢江刺=水沢
- 新花巻=花巻
- 本庄早稲田=本庄
- 上毛高原=後閑
- 燕三条=東三条
- 新鳥栖=鳥栖
- 新大牟田=大牟田
- 新玉名=玉名
選択乗車のない区間
ただ、三島~静岡間のように、すべての区間で完全に自由に選択が認められているわけではありません。選択に制限がある区間を紹介します。
完全に理解するために、色がつけられている意味をよく考えてみましょう。
旅客営業規則には「選択乗車できる場合」だけが列挙されていますが、わかりにくいので、ここでは「選択乗車できない場合」を列挙してみました。
品川~新横浜間
横浜~鴨宮間または新横浜の各駅を発着とする場合は、品川~新横浜間と品川~横浜間は選択できません。
品川~横浜間に特定運賃が設定されているため、かなり運賃が違います。品川~横浜間は300円、品川~新横浜間は420円です。
新横浜~小田原間
横浜~小田原間(赤色)と新横浜~小田原間(青色)の選択乗車を利用できるのは、横浜~新横浜間発着の場合と、東神奈川より東京方面発着の場合だけです。横浜から根岸線桜木町方面や、新横浜から横浜線小机方面発着の場合(緑色)は選択乗車ができません。
名古屋~岐阜羽島間
金山、尾頭橋、名古屋の3駅と、岐阜、岐阜羽島の各駅の間を発着とする場合は名古屋~岐阜羽島間と、名古屋~岐阜間の選択はできません。
金山、尾頭橋、名古屋の各駅と岐阜の間に特定運賃が設定されているため、運賃が違います。名古屋~岐阜間は470円、名古屋~岐阜羽島間は590円です。
八田方面(関西線)や鶴舞以遠(中央線)、熱田以遠(東海道線)から(まで)の場合は選択乗車ができます。または、岐阜から高山線方面や米原方面への場合は選択乗車ができます。
仙台~古川間
小牛田~有壁間または古川の各駅を発着とする場合は、仙台~古川間と仙台~小牛田間は選択できません。
古川~一ノ関間
東仙台~小牛田間または古川の各駅を発着とする場合は、古川~一ノ関間と小牛田~一ノ関間は選択できません。
仙台~一ノ関間
仙台~古川間、小牛田~新田間、くりこま高原~一ノ関間などのように3連続でジグザグに乗ることはできません。
これとは違う方のジグザグの乗り方は可能です。詳しくは後で説明します。
たかく
小牛田駅がオレンジ色になってないでしょ
あんな
たかく
同じように2駅連続で新幹線単独駅がある筑後船小屋~熊本間は制限なしに選択乗車ができるんだけど
北上~新花巻間
花巻~仙北町間または新花巻の各駅を発着とする場合は、新花巻~北上間と花巻~北上間の選択はできません。
新花巻~盛岡間
村崎野、花巻、新花巻の各駅を発着とする場合は、新花巻~盛岡間と花巻~盛岡間の選択はできません。
長岡~燕三条間
東三条~越後石山間または燕三条の各駅を発着とする場合は、燕三条~長岡間と東三条~長岡間の選択はできません。
燕三条~新潟
北長岡~東三条間または燕三条の各駅の各駅を発着とする場合は、燕三条~新潟間と東三条~新潟間の選択はできません。
新下関~博多間
この区間は例外的に、新幹線と在来線を同一視しません。選択乗車もありません。
JR西日本とJR九州で運賃が異なるためです。
この区間に限っては、行きと帰りで経路の違う往復乗車券を作ることができます。その場合でも、指定された経路のとおりに乗車しなければなりません。
参考 新下関から博多間を利用する場合の特例きっぷのルール:JRおでかけネット連絡する他の路線に乗れる区間
新富士と富士の例では、この2駅間を結ぶJR線がありませんので、この区間は路線バスなど、JR以外の手段で移動するしかありません。しかし、中には新幹線単独駅と対応する在来線の駅の間をJR線で移動できるところもあります。こういった場合は、連絡するための区間は別途乗車券を買い求める必要があります。
ところが、追加運賃を払わずに乗ることができる区間もあります。
これらの区間については、近道のきっぷと遠回りのきっぷで値段が異なりますが、効力は同一となります。あえて遠回りのルートで乗車券を買うメリットはありません。
新横浜~小田原間
横浜~新横浜間の各駅を発着とする場合は、発着駅と小田原以遠の各駅との間を、新横浜経由または横浜経由で乗車することができます。
横浜~新横浜間では、乗車券の経路以外を乗車中に途中下車をすることができません。
東神奈川~小田原間を通過する場合は、横浜経由と新横浜経由が選択できます。品川以遠~小田原以遠の間でこの選択乗車を利用したい場合は東神奈川経由の乗車券を買う必要があります。
途中下車が可能な乗車券であれば、乗車券に指定された経路以外を乗車中も途中下車ができます。
また、この選択乗車は互い違いに乗ることができません。横浜で途中下車をした場合は赤いルートを選択したことになるので、青いルートに乗れなくなります。(横浜で途中下車をせずに東神奈川を通過する列車に乗る場合は、東神奈川~横浜間の折り返し乗車が可能です。)
古川~くりこま高原間
小牛田~新田間を通過する場合は、東北本線経由と古川、くりこま高原経由が選択できます。小牛田~古川間の陸羽東線に追加運賃不要で乗ることができます。
くりこま高原~新田間は自力で移動する必要があります。路線バスで移動する場合は新田駅ではなく石越駅で乗り換えになりますが、乗車券の効力上は新田~石越間の権利を放棄する形になるので問題ありません。
途中下車が可能な乗車券であれば、乗車券に指定された経路以外を乗車中も途中下車ができます。
大阪~西明石間
大阪駅発着で山陽新幹線に乗る場合は、大阪~新大阪間をバックする形になります(青いルート)。通常であれば大阪~新大阪間の往復分を余計に払う必要があります。しかし、大阪駅と西明石以西の駅の間を乗車するときは、東海道本線・山陽本線経由(赤いルート)の乗車券で新大阪を経由することができます。
この区間に限っては、乗車券の経路以外を乗車中に途中下車をすることができません。例えば、大阪~西明石間の東海道本線・山陽本線経由の乗車券では新大阪、新神戸に途中下車することはできません。(赤いルートの乗車券では青いルート上の駅に途中下車できません。)
三原~広島間
これは選択乗車ではありませんが、大阪の例と形態が似ているので紹介します。
三原より大阪方面の駅(緑色)と、呉線内の各駅(オレンジ色)の間を海田市経由で乗車する場合は、例外的に三原~広島間の新幹線(青色)と在来線の山陽本線(赤色)を同一視することができます。(ここで言う呉線内の各駅には海田市を含みません。)
これによって、広島駅を経由しない海田市経由の乗車券で、広島駅を経由することができます。海田市~広島間(紫色)は折り返し乗車をする形態となりますが、新幹線は海田市に止まらないため、分岐駅通過の特例が適用されます。折り返し乗車中(紫色の駅)は途中下車することができません。
広島駅で途中下車したい場合は、三原~広島間を別線扱いとみなしてきっぷを作ることもできます。この場合は機械には対応していません。手書きのきっぷを作る必要があるのでみどりの窓口で相談してください。
参考 分岐駅を通過する列車に乗車する場合の特例きっぷのルール:JRおでかけネット在来線同士で似たルートのある場所
在来線同士で複数のルートが考えられる場所がいくつかあります。こういった場所では列車の順序の関係でどっちのルートを通ったほうが速く着くのかが微妙なこともあります。実際に乗るルートに合わせてきっぷを購入するのでは面倒だし、きっぷを買ったあとで変更の手続きをするのも面倒です。そこで、どちらのルートを通っても良い区間が設定されています。
近道の経由の乗車券と遠回りの経由の乗車券の両方を発売しています。両者で運賃が違いますが効力は全く同じなので、遠回りのきっぷを買うメリットはありません。
新幹線の場合と違って、互い違いやジグザグに乗ることはできません。一方のルートを選択したら合流するまでそのルートしか乗れません。
辰野~塩尻間
長野県
辰野、岡谷、塩尻を結ぶ三角形のルートがあります。この周辺では遠回りのルートで運転される列車があります。
考えられるルートはいくつかあるのですが、ここでは飯田線(緑色)が絡む場合だけが設定されています。下諏訪方面と広丘方面の間を乗車する場合は後述の東京近郊区間内となるため、選択乗車ができます。洗馬方面と下諏訪方面の間には選択乗車はありません。
途中下車が可能な乗車券であっても、乗車券に指定された経路以外を乗車中は途中下車ができません。
相生~東岡山間
岡山県~兵庫県
相生~東岡山間は山陽本線と赤穂線が並行して走っています。距離は赤穂線経由(青色)のほうが近いのですが、所要時間と運賃は山陽本線(赤色)のほうが短くて安い、という微妙な区間です。
途中下車が可能な乗車券であれば、乗車券に指定された経路以外を乗車中も途中下車ができます。
相生~岡山間を通過する場合は、山陽本線と山陽新幹線を同じ線路とみなしますので、新幹線との間で選択することもできます。
向井原~伊予大洲間
愛媛県
この区間は近道となる内子線ルート(青色)と遠回りとなる予讃線伊予長浜経由(赤色)のルートがあります。伊予長浜経由のルートには「愛ある伊予灘線」という愛称があります。特急列車は全て内子線を通りますが、普通列車は両方の経由があります。普通列車はタイミングによっては遠回りの列車が先に到着する場合もあります。
途中下車が可能な乗車券であれば、乗車券に指定された経路以外を乗車中も途中下車ができます。
居能~小野田間
山口県
素直に全区間小野田線に乗るルート(青色)と、宇部線で宇部に出て山陽本線で小野田に出るルート(赤色)があります。小野田線で直行するよりも、宇部を経由するほうが近道となります。
途中下車が可能な乗車券であれば、乗車券に指定された経路以外を乗車中も途中下車ができます。
新山口~宇部間
山口県
素直に山陽本線で向かうルート(赤色)と、宇部線で迂回するルート(青色)があります。
新山口~厚狭間を通過する場合は、山陽本線と山陽新幹線を同じ線路とみなしますので、新幹線との間で選択することもできます。
途中下車が可能な乗車券であれば、乗車券に指定された経路以外を乗車中も途中下車ができます。
喜々津~浦上間
長崎県
この区間は新線と旧線が並走しています。特急列車は全て距離の短い新線(青色)を通りますが、普通列車は両方の経由があります。
途中下車が可能な乗車券であれば、乗車券に指定された経路以外を乗車中も途中下車ができます。
喜々津~浦上間を通過となる場合の他に、旧線の途中駅発着の場合でも迂回ができるパターンがあります。
この場合は、途中下車が可能な乗車券であっても、乗車券に指定された経路以外の長与~西浦上間の各駅には途中下車ができません。
大都市近郊区間内相互発着の場合
(この項の内容は、かんたんな説明が時刻表に載っています)
東京や大阪などの大都市の近郊では路線網が複雑になっていて、目的地までのルートがいろいろ考えられる場合があります。そういった場合でもいちいち切符を買うときに経路を指定したりするのは面倒です。
そこで、このように路線が複雑になっている場所では乗客が自由に乗る経路を選択できるようになっています。
一般的には「運賃は最短経路で計算します」という説明がされるのですが、正確には「どの経路のきっぷでもかまいません」という説明のほうが適切です。制度上は遠回りの乗車券も発売していることになっています。ただし、遠回りの切符を買うメリットが全く無いので、売る側も買う側も「最短経路」を指定することになります。
実務上は経路を指定する意味がないので、券売機で売っているきっぷにはそもそも経路が書かれません。
この選択乗車を利用するには、「大都市近郊区間内相互発着」という条件があります。これは、発駅も、着駅も、途中の経路も、全てが「大都市近郊区間」の中に収まっている必要がある、ということです。一駅でもエリアをはみ出した場合は選択乗車ができないので、乗車券に指定されたとおりの経路で乗車しなければいけません。
大都市近郊区間は東京、大阪、福岡、仙台、新潟にあります。
参考 大都市近郊区間内のみをご利用になる場合の特例きっぷのルール:JRおでかけネット新幹線が絡む場合は注意が必要
新幹線は基本的に在来線と同じ線路だとみなすと説明しました。ところが、大都市近郊区間内かどうかを判定する場面にあってはこの原則が崩れます。
東京近郊区間では、東京~熱海間、東京~那須塩原間、大宮~高崎間の新幹線が近郊区間に含まれるように思われますが、これらは全て近郊区間から除外されています。
仙台近郊区間と新潟近郊区間、福岡近郊区間でも新幹線は全て適用範囲外です。ただし、大阪近郊区間の米原~新大阪間と西明石~相生間だけ含みます。これについてはJR各社の考えかたが異なっています。
そのため、大都市近郊区間内で選択乗車をしたいのであれば在来線経由を指定して乗車券を買う必要があります。
大都市近郊区間に含まない | 大都市近郊区間に含む | |
---|---|---|
仙台近郊区間 JR東日本 |
東北新幹線 郡山~一ノ関間 山形新幹線 福島~新庄間 |
なし |
新潟近郊区間 JR東日本 |
上越新幹線 長岡~新潟間 | なし |
東京近郊区間 JR東日本 |
東海道新幹線 東京~熱海間 東北新幹線 東京~那須塩原間 上越新幹線 大宮~高崎間 |
なし |
大阪近郊区間 JR西日本 |
山陽新幹線 新大阪~西明石間 | 東海道新幹線 米原~新大阪間 山陽新幹線 西明石~相生間 |
福岡近郊区間 JR九州 |
山陽新幹線 小倉~博多間 | なし |
大回りの距離に制限はない
これまで説明した選択乗車は、選択できる経路が個別に指定されていました。ところが大都市近郊区間内の選択乗車は、どのルートを通るかは乗客の自由に任されています。どれだけ遠回りをしても構わない決まりになっています。
例えば、東京~新宿間を乗る場合は、中央線経由が一般的ですが、山手線で行くことも可能です。このようなルート選択の自由を与えているのがこの制度です。どれだけ遠回りをしてもよいということは、千葉や高崎を大きく迂回して、東京から新宿まで行っても良いということになります。
このような乗り方は「大回り乗車」といって、鉄道好きの間ではよく知られた裏技となっています。初乗りの140円のきっぷを使って丸一日乗り続けることも可能です。
ルート選択が自由と言っても、片道乗車券の要件を満たさないような経路は認められません。たとえば同じ区間を往復してみたり、同じ駅を2度通ったりということはできません。遠回りのルートが許されるとは言え、同じ方向に乗り続けるということが必要です。
途中下車ができない
これは選択乗車の説明とは関係ありませんが、大回り乗車をする時の注意点なので説明しておきます。
一般的に、JRの乗車券は100キロを超えるものであれば制限なしに途中下車ができます。ところが大都市近郊区間内相互発着の乗車券は一切途中下車ができません。
たとえば、東京~熱海間は104.6キロなので、本来なら途中下車ができる距離です。ところがこの区間は東京近郊区間に収まるので、途中下車することはできません。
当然ですが、東京からの初乗りきっぷを使って1日中乗り続けようとする場合でも途中下車する事はできません。つまり、途中下車できないことと引き換えに、遠回りが許されるという制度なのです。
あんな
たかく
新幹線と在来線は同じ線路とみなすから在来線も乗れるし。
あんな
でもこの区間は別々だとみなすとか言ってたよね…?
たかく
選択乗車と似ている制度
選択乗車は乗車券の経路にかかわらず、乗る経路を選択できる制度です。この制度と似ている他の制度もあります。
う回経路 の発売 |
普通乗車券 回数乗車券 |
定期乗車券 | 料金券※1 | 他経路乗車中 の途中下車 |
|
---|---|---|---|---|---|
選択乗車 | する | ○ | × | × | ○※2 |
経路特定区間 | しない | ○ | ○※2 | ○ | ○ |
70条太線区間 (通過する場合) |
しない | ○ | × | ○ | ○ |
70条太線区間 (発着する場合) |
する | ○ | × | × | × |
列車特定区間 | する | ○ | ○ | ○ | × |
※1 特急券やグリーン券のこと
※2 適用外の区間あり
経路特定区間
経路特定区間は、短い方のルートしかきっぷを売らないという制度です。一旦きっぷを買ったあとは、短い方のルートでも長い方のルートでも好きに選べます。
選択乗車は普通乗車券、回数乗車券に限られていますが、経路特定区間はこれらに加えて定期乗車券にも適用になる区間があります。
下の表の区間を経由する場合に、○のついた経路での計算が強制されます。
会社別 | 区間 | 経路 |
---|---|---|
JR北海道 | 大沼~森 | 函館本線 ○大沼公園経由(22.5キロ) 東森経由(35.3キロ) |
JR東日本 | 赤羽~大宮 | 東北本線 ○川口・浦和経由(17.1キロ) 戸田公園・与野本町経由(18.0キロ) |
日暮里~赤羽 | 東北本線 ○王子経由(7.4キロ) 尾久経由(7.6キロ) |
|
品川~鶴見 | 東海道本線 ○大井町経由(14.9キロ) 西大井経由(17.8キロ) |
|
東京~蘇我 | ○総武本線・外房線(43.0キロ) 京葉線(43.0キロ) |
|
JR西日本 | 山科~近江塩津 | ○湖西線(74.1キロ) 東海道本線・北陸本線(93.6キロ) (定期券は除く) |
大阪~天王寺 | 大阪環状線 ○天満経由(10.7キロ) 福島経由(11.0キロ) (定期券は除く) |
|
三原~海田市 | ○山陽本線(65.0キロ) 呉線(87.0キロ) (定期券は除く) |
|
岩国~櫛ヶ浜 | ○岩徳線(43.7キロ、換算キロ48.1キロ) 山陽本線(65.4キロ) (山陽新幹線を利用する場合にも適用されます) (定期券は除く) |
70条太線区間
正式な名前がないので説明がしづらいのですが、旅客営業規則第70条に定めてあるので、ここではこう呼びます。「電車大環状線」と呼んでいる資料もありますが、どちらにせよ正式名称ではありません。
これは山手線とその周辺のエリアを通過する場合に、エリア内は最短経路でしかきっぷを売らないという制度です。このエリア内を発着駅とする場合は、最短経路以外のきっぷも発売しますが、どちらにせよエリア内はう回乗車ができます。
エリア内を「通過する場合」と、「発着とする場合」で扱いが異なりますので、注意が必要です。
選択乗車と経路特定区間は乗車券しか対象ではありませんが、この制度では通過の場合に限って特急券やグリーン券などの料金券も対象となります。定期券には適用になりません。エリアを通過する場合で、途中下車できるきっぷであれば、う回中であっても途中下車することができます。
この制度は近郊区間内の選択乗車とかぶるところもあります。近郊区間内の選択乗車は近郊区間内相互発着の場合にのみ認められるのに対し、70条太線区間のう回乗車は無条件に認められます。前者は主に近距離を対象としたもので、後者は主に長距離を対象としたものと理解しておきましょう。
70条太線区間は、「東京山手線内」よりも広く、「東京都区内」より狭い範囲ですので注意してください。
参考 東京付近の特定区間を通過する場合の特例きっぷのルール:JRおでかけネット旅客営業規則 第70条
第67条の規定にかかわらず、旅客が次に掲げる図の太線区間を通過する場合の普通旅客運賃・料金は太線区間内の最も短い営業キロによって計算する。この場合、太線内は、経路の指定を行わない。
JR東日本 旅客営業規則
列車特定区間
特定の列車に乗る場合に限って、実際に列車が通る経路ではなく、ショートカットした経路のきっぷで乗車できる制度です。これは、JR側の都合で遠回りの経路で列車を運転するためです。
これも、きっぷを購入したあとで乗るルートを選べることになります。
成田エクスプレス号と はまかぜ号に適用になります。湘南新宿ラインに乗車するときも含みます。
例えば、池袋~赤羽間を、埼京線(正式には赤羽線)経由の定期券で湘南新宿ラインに乗車できるのは、列車特定区間が根拠になっています。選択乗車と70条太線区間は定期券には適用されないことに注意してください。
参考 特定の列車による運賃・料金計算の特例きっぷのルール:JRおでかけネットあんな
たかく
あんな
たかく
あんな
そのほか
以上で説明した以外にも、定期乗車券でう回できる特例がある区間があります。詳しくはJRに問い合わせてみてください。(「定期乗車券による他経路乗車の取扱いの特例」といいます)